読み比べ、ポール・オースター

読み比べ、ポール・オースター

お世話になっている編集さんが誘ってくださった書店イベントで、訳者の柴田元幸さんにサイン本をいただいたのが2012年。『ブルックリン・フォリーズ』の訳本を読んでから2年経って、原書と読み比べてみることにした。あらすじは、不器用に生きているブルックリンの人たちについて。好ましい人間臭が描かれた、じんわり心が温かくなる本だ。

原書を読もうと思ったきっかけは、柴田元幸責任編集のムック『MONKEY』(Switch Publishing)を見たから。伝わりにくいかもしれないが嬉しくて若干興奮気味。昔発行されていた『モンキービジネス』(ヴィレッジブックス)から”ビジネス”がとれて、版元さんが変わった。

『MONKEY』1号めには柴田さんがずっと翻訳している作家のポール・オースターが選ばれていた。柴田ファン+オースターファンにはたまらない一冊。オースターは出身地のアメリカよりも、ドイツ・日本・フランスで人気が高いといわれている。さっそく1ページ目を開く。

<I was looking for a quiet place to die.私は静かに死ねる場所を探していた。>

ひゃー、おんなじだ。当たり前だけどなんか嬉しい。この調子で読み進めます。

そして気になっていた1行がこちら。

< I miss her something terrible. すごくいなくて寂しい。>

柴田さんがイベント中に、翻訳で苦労した部分を聞かれて答えていた箇所。

知的だが家庭環境に恵まれないルーシーという女の子。彼女がお母さんを恋しがるシーンで「お母さんがいなくて寂しいだろう」と聞かれて寂しいと答える場面。I miss her simething terrible.は文法的には間違っている。けれど、彼女独特の言い回しが、幼いけれど高い知性と雰囲気を読者に伝えるので、ニュアンスを壊さず日本語にするのがとても難しかったとおっしゃっていた。なんと訳したかは本の中で探してください、そんな〆だった。

行った甲斐があったなーと思わせてくれるようなイベントの運び。さすが! 2年前読んでたときも「あったー! ここだっ」って嬉しくなったのを思い出した。本を読みながら宝探しをしているような気持ち。どうです? ちょっと読んでみたくなりません?

『MONKEY』はすでに3号目まで出てます。よかったらどうぞ。

『MONKEY』こわい絵本

著 ポール・オースター 訳 柴田元幸『ブルックリン・フォリーズ』(新潮社)

『Brooklyn Follies』